で、此が整然としてゐないことが、人生を暗くしてゐる。日本でも舊時代の「政談」類が、長く人氣を保つたのは、この原始的な感情を無視せなかつた所にあるとも言へる。どいる[#「どいる」に傍線]は極めてしばしば、人間の處置はこれまでゞ、これから先は、我々法に與る者の領分ではないと言ふ限界を、はつきり見つめて、其ははつきりと物を言つてゐるのである。即法律が神の領分を犯そうとすることを、力強く拒んでゐるのである。
こと/″\しく言ふ程のことではないが、ほうむず[#「ほうむず」に傍線]の據り所になつたもでる[#「もでる」に傍線]があるにしろ、此神の如き素人探偵の持つた特異性は、いつも固定してゐない。人間の生き身が常に變化してゐるやうに、ほうむず[#「ほうむず」に傍線]は、生きて移つてゐる。而も彼の特異性が世間にはたらきかけて、犯罪を吸ひ寄せ、罪惡を具象して來る。さうして恰も神自身のやうに、犯罪を創造して行く。彼の口は、皮肉で、不逞な物言ひをするに繋らず、犯蹟を創作する彼の心は、極めて美しい。ほうむず[#「ほうむず」に傍線]を罪惡の神のやうに言つた風に聞えれば、私の言ひ方が拙いので、世の中の罪が彼の氣稟
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