に觸れると、自ら凝集して、固成しないではゐられなくなる。そして次々に犯罪を發見し、又それ自身眞に、その罪惡と別れてゆく。
彼が往々事の起る前兆の樣に行つてゐる化學實驗――それは、さう言ふ殆空虚な、靜まりきつた氣雰の中に、世間犯罪の凝集して來るのを待つてゐるものゝやうにしか思はれない。だから、ほうむず[#「ほうむず」に傍線]の物語は、どいる[#「どいる」に傍線]の行ふ鎭魂術であつたと言つてもよい。
どいる[#「どいる」に傍線]の創造した異質的な義人も、民情の違つた他國では、其點は認められてゐないやうだ。海を渡つて、あるせいぬ・るぱん[#「あるせいぬ・るぱん」に傍線]に戰ひを挑みに來るへるろつく・しよるむす[#「へるろつく・しよるむす」に傍線]に到つては、唯二人の魔法使ひが術比べの場を現《ゲン》じたに過ぎない。ほうむず[#「ほうむず」に傍線]の國とるぱん[#「るぱん」に傍線]の國とでは、「人生詩」を異にしてゐる。――私には、さうとしか思はれない。
底本:「折口信夫全集 第廿七卷」中央公論社
1968(昭和43)年1月25日初版発行
初出:「シャーロツク・ホームズ全集 月報」第1
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