探偵小説は非常に離れて來た。これは今の中に、何とかしてなければならない世界的の事實らしい。事實じようだんぢやない[#「じようだんぢやない」に傍点]と言はずに居られないやうな殘虐や、詭計がみなぎつてゐる。實際かういふ小説の愛讀者は、木々さんの持説のやうに、推理が文學から逸出しても、問題にしない癖がついてゐる。だから何處までゆくか限度が知れない。若い時代の我々が、どいる[#「どいる」に傍線]に微かな感謝を抱いてをつたのは、間違ひではない。時々これがまあどいる[#「どいる」に傍線]かと思はれるやうな血の小説もあるが、同時に多く彼は甚屡、神の如き反省をしてゐる。
神だつて人を憎む。寧、神なるが故に憎むと言つてよい。人間の怒りや怨みが、必しも人間の過誤からばかり出てゐるとは限らない。而も度々、おそらく一生のうちに幾度か、正當な神の裁きが願ひ出たくなる。かう言ふ時に、ふつと原始的な感情が動くものではないか。多くの場合、法に照して、それは惡事だと斷ぜられる。併し本人はもとより彼等の周圍に、その處斷を肯《ウベナ》はぬ蒙昧な人々がゐる。かう言ふ法と道徳と「未開發」に對する懷疑は、文學においては大きな問題
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