迦陵頻迦のやうな声が澄み徹つた。をり/\見上げる現ない目にも、地蔵菩薩さながらの姿が映つた。若い女は、みな現身仏の足もとに、跪きたい様に思うた。けれども身毒は、うつけた目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声にほれ/″\としてゐた。ある回想が彼の心をふと躓かせた。彼の耳には、あり/\と火の様なことばが聞える。彼の目には、まざ/″\と焔と燃えたつ女の奏が陽炎うた。
踊り手は、一様に手を止めて、音頭の絶えたのを訝しがつて立つてゐた。と切れた歌は、直ちに続けられた。然しながら、以前の様な昂奮がもはや誰の上にも来なかつた。身毒は、歌ひながら不機嫌な師匠の顔を予想して慄へ上つてゐた。……あちらこちらの塚山では寝鳥が時々鳴いて三人を驚かした。思ひ出したやうに、疲れたゞの、かひだるいだのと制※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]迦が独語をいふ外には、対話はおろか、一つのことばも反響を起さなかつた。家へ帰ると、三人ながらくづほれる様に、土間の莚の上へ、べた/″\と坐り込んだ。
源内法師は、身毒の襟がみを把つて、自身の部屋へ引き摺つて行
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