放さなかつた。
どうも、うは/\してゐる、と師匠の首を傾けることが度々になつた。
田楽師はまた村々の念仏踊りにも迎へられる。ちようど、七月に這入つて、泉州石津の郷で盆踊りがとり行はれるので、源内法師は身毒と、制※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]迦童子とを連れて、一時あまりかゝつて百舌鳥の耳原を横切つて、石津の道場に着いた。其夜は終夜、月が明々と照つてゐた。念仏踊りの済んだのは、かれこれ子の上刻である。呆れて立つてゐる二人を急き立てゝ、そゝくさと家路に就いた。道は薄の中を踏みわけたり、泥濘を飛び越えたりした。三人の胸には、各別様の不安と不平とがあつた。踊り疲れた制※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]迦は、をり/\聞えよがしに欠をする。源内法師は鑢ででも磨つて除けたいばかりに、いら/\した心持ちで、先頭に立つてぼく/″\と歩く。久かたぶりの今日の外出は、鬱し切つてゐた身毒の心持ちをのう/\させた。けれどもそれは、ほんの暫しで、踊りの初まる前から、軽い不安が始中終彼の頭を掠めてゐた。彼は、一丈もある長柄の花傘を手に支へて、音頭をとつた。月の下で気狂ひの様に踊る男女の耳にも、その
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