慳貪な声を上げて、二人を追ひ返した。
何も知らぬ身毒は、其夜一番鶏が鳴くまで、師匠の折檻に会うた。
夜があけて、弟子どもが床を出たときに、青々と剃り毀たれた頭を垂れて、庭の藤の棚の下に茫然と彳んでゐる身毒を見出した。源内法師の居間には、髪の毛を焼いたらしい不気味な臭ひが漂うてゐた。師匠は晴れやかな顔をして、廂に射し込む朝の光りを浴びてゐた。然しそれは間もなく、制※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]迦童子と渾名せられてゐる弟子の一人に肩を扼せられて出て来た、身毒の変つた姿を目にした咄嗟に、曇つて了つた。
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何も驚くことはない。あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。
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身毒を居間に下らした後、事あり顔に師匠の周りをとり捲いた弟子どもに、こだはりのない声でから/\と笑つた。
瓜生野の田楽能の一座は逢坂山を越える時に初めて時鳥を聞いた。住吉へ帰ると間もなく、盆の聖霊会が来た。源内法師はこれまで走り使ひにやり慣れた神宮寺法印の処へさへも、身毒を出すことを躊躇した。そして、その起ち居につけて、暫くも看視の目を
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