を今でも覚えてゐる。蝦蟇の肌のやうな、斑点が、膨れた皮膚に隙間なく現れてゐた。
――とうちやんこれは何うしたの」と咎めた彼の顔を見て、返事もしないで面を曇らしたまゝ、急に着物をひつ被つた。記憶を手繰つて行くと、悲しいその夜に、父の語つた言葉がまた胸に浮ぶ。
父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。その為に父は得度して、浄い生活をしようとしたのが、ある女の為に堕ちて、田舎聖の田楽法師の仲間に投じた。父の居つた寺は、どうやら書写山であつたやうな気がする。それだから、身毒も法師になつて、浄い生活を送れというたやうに、稍世間の見え出した此頃の頭には、綜合して考へ出した。唯、からだを浄く保つことが、父の罪滅しだといふ意味であつたか、血縁の間にしふねく根を張つたこの病ひを、一代きりにたやす所以だというたのか、どちらへでも朧気な記憶は心のまゝに傾いた。
身毒は、住吉の神宮寺に附属してゐる田楽法師の瓜生野といふ座に養はれた子方で、遠里小野の部領の家に寝起きした。
この仲間では、十一二になると、用捨なくごし/\髪を剃つて、白い衣に腰衣を着けさせられた。ところが身毒ひとりは、此年十七になるまで、
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