す妬み憎み、其から異郷人に対する害心と侮蔑とに輝いてゐる。若い身毒は、何処へ行つても、かうした瞳に出会うた。さうして、かうした度毎に、身の窄まる思ひがした。
子どもたちは、やがて、外から見え透く広い梯子を伝うてつし[#「つし」に傍点]の上にあがつて行つた。
一行の為に、南開きの、崖に臨んだ部屋が宛てがはれた。
源内が、家のあるじに挨拶に行つた間を、ひろ/″\と臥てゐた人たちの中で、ぽつゝりと一人坐つてゐた、彼を見とがめた一人が、どうしたのだと問うた。
どうもしない、と応へるほかには、いふべき語がわからない心地に漂うてゐたのである。
がらんとした家の中は、遠くから聞えて来る人声がさわがしく聞えた。子どもらは、いろんな聞きも知らぬ唄を、あどけない声で謡うてゐる。身毒は、瓜生野の家を思うた。しかし女気のない家の中に、若い男や中年の男が、仮に宿つてゐるといふだけで、かうした旅の泊りとちがうた処がないのだ、といふ心持ちが、胸をたぐるやうに迫つて来る。
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くたびれた/\。おや、身毒。おまへも居たのか。おまへはいつも、わるい癖ぢやよ。遠路をあるくと、きつと其だ。なんてい不機嫌な
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