である。小さな者らは、時々立ち止つて、山の腰から泌み出てゐる水を、手に受けためては飲んだ。さうして隔つた人々に追ひすがる為に、顔をまつか[#「まつか」に傍点]にしては、はしり/\した。
国見山をまへにして、大きな盆地が、東西に長く拡つてゐた。可なりな激湍を徒渉りして、山懐に這入ると、瀁田に代掻く男の唄や、牛の声が、よそよりは、のんびりと聞えて来た。其処は、非御家人の隠れ里といつた富裕な郷であつた。
瓜生野の一座は、その郷士の家で手あついもてなしを受けた。源内法師は、すぐ明日の踊りの用意にかゝる。力強い制※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]迦は、屋敷の隅の納屋から榑材などをかつぎ出すその家の下部らに立ちまじつて、はたらいてゐる。
身毒は、広々とした屋敷うちを、あちらこちらと歩いて見た。
それは、低い田居を四方に見おろす高台の上を占めて、まんなかにちよんぼりと、百坪あまりの建て物がたつてゐるのであつた。
広くつき出した縁の上には、狐色に焦れて、田舎びた男の子や、女の子が十五六人も居て、身毒らの着いた時分から、きよと/\、一行の容子を見瞻つてゐた。彼らの目色には、都人の羨しさを跳ねかへ
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