式の組織を借りこんで来た神道哲学者流には、其点が訣つてゐない。そして、其が訣らないから、古代人の内生活は、極めて安易に、常識的にしか、理解せられて来ないのである。見かけは頗《すこぶる》単純な様でも、其効力は、四方八方に及ぶのが、呪詞発想法の特色であつて、此意味に於て、私は祝詞ほど、暗示の豊かな文章はないと思ふ。
次に此「のりと」といふ語の語義は、昔から色々に解説せられてゐるが、のりと[#「のりと」に傍線]とは、初春に当つて、天皇陛下が宣処《ノリト》即、高御座に登られて、予め祝福の詞を宣り給ふ、其場所のことである。つまり、のりと屋[#「のりと屋」に傍線]・のりと座[#「のりと座」に傍線]の意味である。天皇陛下が神の唱へ言をされて、大倭根子天皇の資格を得させ給ふ場所が、即「のりと」である。そして其場合に、天皇陛下の宣らせ給ふ仰せ詞が「のりとごと」である。最初には、予めの祝福、即「ことほぎ」であつたが、次第に其が分化して、後には讃美の意味にもなり、感謝の意味にも転じた。
酒楽《サカホカヒ》なども、最初は、酒を醸す時の祝福の詞及び、其に伴ふ舞踊であつたのであるが、後には、其醸された酒を飲む事ま
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