ち」に傍点]の思想である。此は、言ひかへれば、不老不死といふ意味で、呪詞信仰と密接の関係がある。いつでも、元始《ハジメ》に戻る唱へ言をするから、其度毎に、新しい人になつて、永久不滅の命を得るのである。武内宿禰が、三百余歳の寿を保つたといふのも、其である。而も此人は、本宜《ホキ》歌の由来を繋けられてゐる。長生するのも、尤である。其外、民間の伝承では、倭媛命・八百比丘尼・常陸坊海尊などが、何れも皆長生してゐる、とせられてゐる。此も唱へ言と、関聯してゐるのである。
此等の物語では、昔語りをする人は、同時に昔生きて居た人である、といふ事になつてゐるが、後には、其物語の主人公の側近くゐた人だ、といふ事に変つて来てゐる。譬へば、義経に対して常陸坊海尊、曾我兄弟に対して虎御前などは、此類である。併し、あの虎御前といふのは、実は物語中の人物ではなく、虎ごぜ[#「虎ごぜ」に傍線]といふ人が曾我の事を語りあるいた事を意味するのである。虎ごぜ[#「虎ごぜ」に傍線]の「ごぜ」は、瞽女のごぜ[#「ごぜ」に傍線]と同じである。虎といふ名の盲御前である。其が白拍子風の歌を、鼓を打つて語つたのが、段々成長して、遂に、 
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