頭郡)では、島の六月の祭りを「うふあなの拝《ウガン》」と言うて、其頃|恰《あたかも》寄り来る儒艮《ザン》を屠つて、御嶽々々に供へる。其あまりの肉や煮汁は、島の男女がわけ前をうけて喰ふ。島以外の人は、島の中に、儒艮御嶽《ザンオタケ》なる神山があつて、此人魚を祀つてゐると言ふが、島人に聞けばきつと、苦い顔で否定する。さうして昔は、人魚でなく、海亀を使うたと言ふ。併し今こそ儒艮《ザン》が寄らなくなつたので、鱶を代りに用ゐる事にして居るのは事実だが、海亀は現に沢山居るのだから、其来なくなつた代りに使うたものとはうけとれぬ。何にしても、特殊な感情を、此海獣に持つてゐる事だけは明らかである。
又、此島と呼べば聞えさうな辺にある一つの土地では、血縁の深さ浅さを表す語《ことば》に、まじゝゑゝか[#「まじゝゑゝか」に傍線]・ぶつ/″\ゑゝか[#「ぶつ/″\ゑゝか」に傍線]と言ふのがある。ゑゝか[#「ゑゝか」に傍線]は親類、まじゝ[#「まじゝ」に傍線]は赤身、ぶつ/″\[#「ぶつ/″\」に傍線]は白いところ即脂身である。死人の赤身を喰べるのが近い親類で、遠縁の者は、白身を喰ふからだと説明してゐる。
此二つ
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