発くまでもなく、かうした結婚の、破局に陥らねばならぬ原因は、夫々の話に潜む旧生活の印象が、其を見せてゐる。其は、其母が異族の村から持つて来た、秘密の生活法の上にあつたのである。
沖縄の話の序に、今一つ言ふと、先島(八重山・宮古諸島)辺ではよく、あの一族では何の魚類、此|門中《モンチユウ》では某の獣類と言ふ風に、ある家筋に限つて、喰ふ事の禁ぜられて居る動物が、大抵どの家々にも、一つ宛はある様だ。譬へば、鱶・海亀・鮪・儒艮《ザン》・犬・永良部《エラブ》鰻の様な物に対して、厳重な禁制が保たれて居るのである。さうして其理由を、祖先が其動物に助けられたから、又は祖先其物だから、と言うたりして居る。
祖先を動物とする中著しいのは、八重山人は蝙蝠の子孫、宮古人は黒犬の後裔と称する事である。二つの島人どうし互に、さう言つて悪口をつきあうてゐる。だから此島々では、家々で大事の動物のある上に、島としての疎かならぬ生き物がある訣なのである。
部落を拡げて考へれば島となるが、小さくして見れば、家々であり、一族である。つまり、一族の生活を規定し、或信頼を担うてゐる動物のある事が考へられる。津堅《ツケン》の島(中
前へ 次へ
全57ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング