の飛び衣をやらう。飛び衣は高倉の下に匿してある」と無心に謡ふのを聞いて、飛び衣の在りかを悟つて、其を着て上天したと言ふ。
子どもの無心でした事が、親たちを破局に導く点は、此迄挙げた狐の話の全体と通じて居る。太古の団体生活の秘密は、子供に対しては、とりわけ厳重に守らねばならなかつた。成年式を経ない者に、団体生活の第一義を知らせると言ふ事は、漏洩の虞れがあり、又屡さうした苦い経験を積まされてもゐたからである。今一つは、無心な子供に、神意を託宣せられると言ふ信仰である。此二つの結びつきが、此類の伝説の基礎にはあつたらしい。

     七

父と母との間に横たはつてゐる秘密を発く役を、子どもが勤める事に就て、もつと臆測がゝつた考へを、臆面なく述べさせて頂く。よその部落と部落、尠くとも非常に違つた生活条件を持つて居るものと、てん/″\に考へ相うて居る部落どうしの間に、結婚の行はれた時には、事実子どもを無心の間諜と見ねばならぬ場合も、起りがちだつた事と思はれる。
併し一方、夫と妻とが別々に持つ秘密が、子どもの為に調和せられてゆく事もある。此が、社会意識の拡がつて行く、一つの道でもあつた。子どもが
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