でゐると、女房と子供の姿が、神殿から現れた。其後猟師も神になつた。此が由緒で、三輪の祭りには、奄芸の人がわざ/″\参加に出かけるのだ、と言ふ風の伝へになつて居る。神女とあるのは、女神の意味でなく、巫女を言ふのだらう。
此話などは今一転すると羽衣伝説になつて来る。内地の羽衣伝説では、天女の子を問題にせぬ様だが、沖縄になると、子供が重要な役まはりになつて居る。宮古島の漲水御嶽《ハリミヅオタケ》と言ふ拝処の由来には、女に通うた蛇が、女児三人孕ませて後、自分の種姓を明して去つた。約束通り三年目に、漲水へ連れて行くと、父の大蛇が姿を見せたので、母は子を捐てゝ逃げ出したのに、子どもは何とも思はないで、一人々々首と腰と尾に乗つて、蛇と共に御嶽の中に飛び入つたとある。三輪の神女と子との神になつた話に似て居るばかりか、糸をかけて男の家をつきとめる型まで含んでゐるのである。
銘苅子《メカルシイ》と言ふ人は、水浴中の天女の「飛《ト》び衣《ギヌ》」を匿して、連れ戻つて宿の妻として、子を二人までなさせた。ある日母なる天女が聞いてゐると、弟を守りすかして居る姉娘の子守り唄に「泣くな/\。泣かなかつたら、おつかさん
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