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恋ひしくば、とぶらひ来ませ。ちはやぶる三輪の山もと。杉立てるかど
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と言ふのだとある。此は、古今集の
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わが庵は三輪の山もと。恋ひしくば、とぶらひ来ませ。杉立てるかど
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の拗れた形に過ぎない。
ところが、顕昭法橋の「顕註密勘」には、同じ歌が、こんな話の中に伝つて居る。伊勢国奄芸郡に一人の猟師が居た。ある夜、山で鹿を待つて居た処、鹿は来ないで、闇の中にぎろ/″\光る大きな眼の物が来た。猟師が矢を射ると、逃げて了つた。其跡をつけて行くと、古塚の穴に這入つて居る様である。穴の外に、神女が一人居て言ふには、あれは化け物である。自分はあの化け物に捕れて、大和からこゝへ来たものだ。あれを焼き殺してくれとある。で、柴を穴にうち込んで、化け物を焼き殺して了うた。其跡が野中塚と言うて居る。神女は猟師と夫婦になつて、子さへ儲けた。其後暫らくして、姿を隠して了うた。猟師が悲しんで居る中、母を慕うて居た子供も、何処かへ影を隠した。神女の残して行つた「三輪の山もと杉たてるかど」によつて、大和へ尋ねて行つて、三輪の社を拝ん
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