た家筋である点から、注意すべきものである。緒方氏の先祖は蛇である。自分の処へ通ふ男の家を知る為に、糸をとほした針を領《エリクビ》にさし込んで、翌朝糸を伝うて行くと、姥个嶽の洞穴で止つて居た。中で非常に呻く声がして、針が首にさゝつて、自分はもう死ぬ、併し、子はお前に宿つて居るから、其を育てゝくれと言うた。一度姿を見せてくだされと言ふと、中から大きな蛇が首をつき出した。其孫にあたる人を「あかゞり大太《ダイタ》」と言つて、鱗の様に皮膚がきれて居たと言ふ。其からして、緒方氏の家長になる人には、皆背中に鱗が生えて居るとある。日本中に、鱗や八重歯を一族の特徴とする家が、かなりある様である。此が即《すなはち》前に言ひ置いた浦野一族の乳の特徴と一つのものである。
三輪明神は、古い処では、此様に男と考へて居る様であるのに、中世から女と考へて来る事になつた。謡曲の三輪などにも其は見えて居るが、もつと古くから、さう信じられて居たものらしく、尠くとも平安朝の末には、明らかに見えてゐる。俊頼の「無名抄」には、三輪明神は、住吉明神の妻であつたが、住吉明神に棄てられたので、歌を詠んで住吉明神に贈られた。その歌は

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