の狐も、上古と近世には、やさしい感じを持つて語られて居るが、平安朝から後久しく、恐しくて執念深いものとなつたのは、托枳尼《ダキニ》の修法の対象として使はれたせゐであらうと想像してゐる。ところで、日本の動物中、さうした点で狐と勢力争ひの出来るのは、まづ蛇であらう。蛇との交渉が古い処に多く、狐との関係は、わりあひ新しい時代に殖えて来た様にさへ思はれるのである。
蛇との恋で名高い話は、大和の三輪の神に絡んで居るもので、大体二様になつて居る。晩に来て姿を見せない。どこの男だか知れないから、男の着物へ、娘が針をさして置いたら、窓から出て、三輪山に這入つて居たと言ふのと、今一つ百襲《モヽソ》媛と言つた方が、姿を見せてくれと男に言ふと、明日お前の櫛笥の中に這入つて居ようと言うた。箱を開けて見ると、蛇が居たので驚きの声を立てた。すると、おれに恥を見せたと言つて去つたと言ふのとである。百襲媛は事実皇族出の巫女であつた。其に神が通うたのである。前の方には蛇の事はないが、三輪の神を蛇体と考へて居た事は事実である。
此系統の話で、九州の緒方氏の伝説は、其家が元|大神田《オガタ》で、三輪(大神々社)社に関係あつ
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