ない知識も、後世には其部落の伝説となるかも知れない。此記載が角太夫ぶしの正本を生み、竹本座の正本にまで発達したのだとして、此でまづ、一通りの説明はつく様だが、此だけで説き尽されたものと考へられては、甚残念である。

     五

「大内鑑」や「信太妻」の作者が、此だけの種に、脚色をつけたものと思はれぬのは、もつと考へねばならぬ色々の種を含んで居る点である。譬へば、なぜ童子或は童子丸といふ名が、葛の葉の子に与へてあるのだらう。※[#「竹かんむり/甫/皿」、第3水準1−89−74]※[#「竹かんむり/艮/皿」、第4水準2−83−69]内伝抄では、問題になつて居ない点である。
意識上の事実もあらうが、多くは無意識的に、色々な記憶――時として個人の胸に再現するものを籠めて――を持ち出して居るのである。「物臭太郎の双紙」と同じ傾向で、所謂お伽双紙の中にこめられて居る「狐の双紙」と言ふのを見ると、或僧都が家に居ると、乗り物をもつて迎への者が来る。其に乗つて行くと、立派な家に入つた。僧都は、其処の女あるじと契りをこめる事になる。暫らく其家で暮して居た処が、或日、若僧が二三人、錫杖をふり立てゝ出て来
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