た。其を見ると、女たちは大騒ぎして逃げ散つた。ふつと目を覚すと、御堂の縁の下で寝て居たのだ。畳と思うたのは、蓆のちぎれたものだつたといふ様な話で、とんと[#「とんと」に傍点]我々の耳にまだ残つて居る、狐につまゝれたお百姓たちの、所謂実験談其儘である。私どもの聞いた話は、大抵狐もあつさりして居て、よく/\執念深い狐で通つてゐる奴の外は、仏の利益がなくとも、背中の一つもどやされると、気のつく程度のものばかりである。此点、狐が呪法の上に主な役目をしなくなつた時代を見せてゐるのだと思はれる。此は、後の話が、そこに触れて行く事と思ふ。
右のお伽双紙の原画とまで思はれるものが、平安朝でも古い処にある。三善清行、備中介であつた頃、聞いた事である。実際其当人をも知つて居る様に書いてあるのだが。備前小目|賀陽《カヤ》[#(ノ)]良藤、妻に逃げられて気落ちした様になつて居た頃、菊の花に結びつけた消息を、一人の女が持つて来た。其には、ある身分の高い女が良藤を思うて居るよしが認《したた》めてある。良藤は、其女の処へ通ひ始めて、後には、家を出て女の家に三年暮した。其中に、子どもが出来た。良藤は先妻の子を廃嫡して
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