」、第3水準1−89−74]※[#「竹かんむり/艮/皿」、第4水準2−83−69]《ほき》内伝抄」によつて、葛の葉の話が、ちよつと目鼻がつき相に見える。早急を尊ぶ態度の、おもしろくない事を証明する為に、仮りに結論を作つて見よう。
此は名高い話で、葛の葉の話の唯一の種の様に言うて来てゐるのであるが、此話は、江戸以前尠くとも室町の頃には、既に纏つて居たものと見られる。晴明の母御は、人間ではなかつた。狐の変化であつたのが、遊女になつて諸国を流浪して居る中、猫島に行つて、ある人に留められて、其処に三年住んだ。其間に子が出来たので、例の歌を残して去つて了うた。子は成人して陰陽師となつた。都に呼びよせられた時、母の恋しさに、和泉国信太[#(ノ)]杜《モリ》へ尋ねて行つて拝んで居ると、年経る狐が姿を顕した。其が、晴明の母の正体だつたといふのである。
合理的な議論を立てれば、人まじはりの出来ぬ漂浪民《ウカレビト》の女だから、畜生と見て狐になつて去つたといふのであらう。殊に信太[#(ノ)]杜の近くには、世間から隔離せられて居た村が今もあるから、其処から来た女だらうと言ふ様なことも言はれよう。こんなあぢき
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