仰言るか。尊卑を弁へて、礼儀正しいわりには、自由思想がありましてね。昔から、町人なら町人、百姓・漁師なら百姓・漁師で、其仲間中の礼儀を守つて居りますし、其腰の低さ、語の柔かさ、とてもよそ外《ホカ》には見られますまい。此は、当国へ渡つた流され人が、大抵身分のよい、罪状も悪くなかつたもので、上方の長袖、殊に、房主が多かつたものですから、其感化です。寺に住みついたのもあり、村方に預けられたのもありますが、島の人の教育は、大抵、流人がしてくれたのです。旧《モト》からもわりあひに、純良な住民ではあつた様です。
九州や中国の大名の一族の逃げこんで来たのもあります。そんなのがあちこちの小高い場処に御館所《オタチシヨ》を開いて、館《タチ》を構へ、配下の者を支配してゐました。其外、唯のより百姓があり、町人があり、海部《アマ》がありしますが、一触《ヒトフレ》・一字の親しみは、非常なものです。御館の下の村でも、御館の主の外は、平等であつた。まして、其以外の階級では、誰が上の下のと言ふ区別は、あまりなかつたのです。士分の制度もありましたが、此は旧郷士を平戸藩で認めて、とり立てたのです。其が後々には、藩の財政か
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