本と此蘆辺――で捌いて、金に換へる。其で、目あての獲物が脇の方へ廻る時分になると、対馬へなり、地方《ヂカタ》へなり行つて、復そこで稼ぐ。壱岐のれふし[#「れふし」に傍線]だつて、やつぱりさうであつた。対馬から朝鮮かけて、漁期には村を出払つて、行つてゐる。土地に始中終《しよつちゆう》居て、近海ばかりをせゝくつて[#「せゝくつて」に傍点]ゐるのは、蜑の村の人たちである。其でも近年は、朝鮮近海へ出て行く者も出来た。
こんな話を聴いてゐる中に、地方行きの荷役をすませ、きまつた時間のありだけ、悠々と息を入れてゐた火夫は、なた豆のきせる[#「きせる」に傍点]をたばこ入れ[#「たばこ入れ」に傍線]に挿んで、立ち上つた。
海鴉と言ふ鳶に似た鳥が、蚊を見る様に飛び違ふ中を、ほと/\と汽鑵の音立てゝ、磯伝ひに、島を南にさがつて行つた。ひやついて来たのは、風が少し出たのである。船の大分横ぶれ[#「ぶれ」に傍点]し出したのは、波が立つて来たのである。今晩あたりは一荒《ヒトア》れ来るかなあなどゝ、まだ船に残つてゐた客は、あがる支度を整へて、甲板へ出て来て、噂しあうた。
島の東岸、箱崎・筒|城《キ》の磯には、黒い
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