しく、五説経其他の古い説経よりも「三度の礼拝浅からず」など言ふ句をくり返して、正式に説経らしい形を存してゐる。昔は、いちじよ[#「いちじよ」に傍線]の唱へる説経がもつとあつた様だが、今では残つてもゐないし、いちじよ[#「いちじよ」に傍線]自身も知らない。
此外に、志原の翁は「寅童丸」と言ふ説経らしいものを諳誦して、伝へて居る。伝来は不明であるが、十二段草子系統の稍進んだ形で、古浄瑠璃小栗判官などにも似てゐるけれど、其よりは古めかしい。文の段・忍びの段・百人斬りの段などを、誦み上げるやうにして、聞かしてくれた。百人斬りは、かなりしつかりとして、力ある上に、笑はせる様な文句も這入つてゐる。此も、或はさうした系統の物かと思ふが、訣らない。
忍びの段は、屋敷・庭の叙景など細やかに、古風な姿を見せてゐるが、姫の枕元に行つてからの動作が優美でない。姫の髪の毛を分けて手に捲いて、此を琴の様に弾いて、姫を怒らせる様な事を言うたり、かたらひを遂げる処なども子供らしくて、鄙びた譬喩を使うたりしてゐる処などは、説経の改刪の径路を思はせる。
書かれた根本[#「根本」に傍線]を語る中に、色々な入れ語《コト》を交
前へ
次へ
全46ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング