へて来たのが、又書きとられて根本[#「根本」に傍線]の異本が出来て来る。さうした物を、比老人も読んで覚えたものらしい。此上は幾ら尋ねても、根本[#「根本」に傍線]の有無、口伝か書物からの記憶か、そんな事も、話を外して言うてはくれなかつた。寅童丸の語り物を知つたのは、島中に、此人一人だから、大切にする考へなのであらう。まさか、若い時分に、今は故人のいちじよ[#「いちじよ」に傍線]の一人から深秘の約束で教へられた、と言ふやうなものでゞもあるまい。
浄瑠璃史家は、十二段草子の前に「やすだ物語」と言ふ因幡薬師の縁起を説いたものが、今一つあつて、其が浄瑠璃の最初だらうと言ふ。併し、説経は長い伝統ある物で、安居院《アグヰ》の「神道集」なども、説経の古い形のもので、語つたものに相違なく、やはり一つの浄瑠璃であつたのだ。浄瑠璃節が固定するまでには、其系統の物語は段々あつたと見てよからう。舞の詞なども、唱門師の手にあつたものだから、浄瑠璃化せぬ訣はない。
浄瑠璃は恐らく元、女の語るもので、曾我物語などの様に、瞽女が語つたものであらう。其に仏教の唱導的意義が加つて居ない間は、まだ浄瑠璃の定義に入らないのだ
前へ
次へ
全46ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング