感想の二三枚も書いて、故人をくやむ[#「くやむ」に傍点]心だけを、その後、知りあひになつた遺族の方々の前に表したい――さう思うて書かうとする訣、全く唯何となく、書いて見るだけのことである。
故人についての知識は、一から十まで、故人の友だち伊馬春部から得たもので、その書き物も大方、あれを讀め、之を讀めと言つては、春部の持つて來てあてがつた物から得たのである。だから相當に讀んでゐても、かう言ふ事をするのに、ひけ目[#「ひけ目」に傍点]を感じる訣である。今度出るのは、「櫻桃」・「人間失格」、それに「ヴィヨンの妻」――皆故人の名を、その時々に、一段づゝせりあげた作物である。
だが私は、あゝ言ふ變質風な性格や、慾望ばかりを描寫したものが、太宰作風の全體ではないと始終考へてゐるものだから、かう言ふとりあげ方は、外の本屋の傑作選といふ風なものについても、よい氣がしなかつた。これでは、太宰君が可愛相だ――、そんな風に思うて來たものである。だから、角川の文庫の竝べ方についても、あまりぞつとしない[#「ぞつとしない」に傍点]氣がしてゐる。そんな訣で、せめて「竹青」を入れてくれ、と希望を述べた位である。

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