信じて 安らかになつたに違ひない。

若い友人は 若いがゆゑの
夢のやうな業蹟を 殘して死んだ。
こればかりは、
若くて過ぎた人なるが故の美しさだ と言ふ思ひが――、
年のいつた私どもの胸に 沁む――。

何げない貌《カホ》で 死んで行つたが――
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ほんたうに 遠く靜かになつた人
もういつまでも ものなんか言はうとしないでもよい。
私の※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《マブタ》を温める ほのかな光りを よこしてくれ
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        *     *     *

私などが、太宰君の本の解説を書いて見たところで何の意味もないことである。故人作物の批評や、案内の類の書き物は、手近いところに幾らもあるのだから、そんな點では、私如きは、手を空しくして眺めてゐる外はない。其でも生前、口約束のやうなことを、人をとほしてあり、その作物をこんな風に見てゐる者もあると言ふことだけは、故人に知つて置いて貰はうと思うたこともあるのだから、謂はゞ書くべき義理がない訣でもない。其で、世の人のすなる[#「世の人のすなる」に傍点]評判記の類に繋りなく、勝手な
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