常世の水の、しかも不慮の湧出を讃えて、ゆかは[#「ゆかは」に傍線]と言い、いづるゆ[#「いづるゆ」に傍線]と言うた。「いづ」の古義は、思いがけない現出を言うようである。おなじ変若水《ヲチミヅ》信仰は、沖縄諸島にも伝承せられている。源河節の「源河走河《ヂンガハリカア》や。水か、湯か、潮《ウシユ》か。源河みやらびの御甦生《ウスヂ》どころ」などは、時を定めて来る常世浪《とこよなみ》に浴する村の巫女《ミヤラビ》の生活を伝えたのだ。
常世から来るみづ[#「みづ」に傍線]は、常の水より温いと信じられていたのであるが、ゆ[#「ゆ」に傍線]となるとさらに温度を考えるようになった。ゆ[#「ゆ」に傍線]はもと、斎《ユ》である。しかしこのままでは、語をなすに到らぬ。斎用水《ユカハ》あるいはゆかはみづ[#「ゆかはみづ」に傍線]の形がだんだん縮《ちぢま》って、ゆ[#「ゆ」に傍線]一音で、斎用水を表すことができるようになった。だから、ゆ[#「ゆ」に傍線]は最初、禊ぎの地域を示した。斎戒沐浴をゆかはあみ[#「ゆかはあみ」に傍線](紀には、沐浴を訓《よ》む)と言うこともある。だんだんゆかは[#「ゆかは」に傍線]を家
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