間の湯具も、これである。そこに水の女が現れて、おのれのみ知る結び目をときほぐして、長い物忌みから解放するのである。すなわちこれと同時に神としての自在な資格を得ることになる。後には、健康のための呪術となった。が、もっとも古くは、神の資格を得るための禁欲生活の間に、外からも侵されぬよう、自らも犯さぬために生命の元と考えた部分を結んでおいたのである。この物忌みの後、水に入り、変若《ヲチ》返って、神となりきるのである。だから、天の羽衣は、神其物《カムナガラ》の生活の間には、不要なので、これをとり匿《かく》されて地上の人となったというのは、物忌み衣の後の考え方から見たのである。さて神としての生活に入ると、常人以上に欲望を満たした。みづのをひも[#「みづのをひも」に傍線]を解いた女は、神秘に触れたのだから、神の嫁[#「神の嫁」に傍線]となる。おそらく湯棚・湯桁は、この神事のために、設けはじめたのだろう。
御湯殿を中心とした説明も、もはやせばくるしく感じだされた。もっと古い水辺の禊ぎを言わねばならなくなった。湯と言えば、温湯を思うようになったのは、「出《イ》づるゆ」からである。神聖なことを示す温い
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