した海岸に居《お》り、物忌みの海藻の歌物語を持ち、また因縁もなさそうな和歌[#(ノ)]浦の女神となった理由も、やや明るくなる。
 私は古代皇妃の出自が水界に在って、水神の女であることならびに、その聖職が、天子即位|甦生《そせい》を意味する禊ぎの奉仕にあったことを中心として、この長論を完了しようとしているのである。学校の私の講義のそれに触れた部分から、おし拡げた案が、向山武男君によって提出せられた。それによると、衣通媛の兄媛なる允恭《いんぎょう》の妃の、水盤の冷さを堪《た》えて、夫王を動《うごか》して天位に即《つ》かしめたという伝えも、水の女としての意義を示しているとするのだ。名案であると思う。穢れも、荒行に似た苦しい禊ぎを経れば、除き去ることができ、また天の羽衣を奉仕する水の女の、水に潜《カヅ》いて、冷さに堪えたことを印象しているのである。水盤をかかえたというのは、斎河水《ユカハミヅ》の中に、神なる人とともに、水の中に居て久しきにも堪えたことをいうのらしい。やはりこの皇后の妹で、衣通媛のことらしい田井中比売《タヰノナカツヒメ》の名代《ナシロ》を河部と言うたことなどもおほゝどのみこ[#「
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