り]
天武の夫人、藤原[#(ノ)]大刀自《オホトジ》は、飛鳥の岡の上の大原に居て、天皇に酬《むく》いている。この歌のごときは「降らまくは後《ノチ》」とのからかい[#「からかい」に傍点]に対する答えと軽く見られている。が、藤原氏の女の、水の神に縁のあったことを見せているのである。「雨雪のことは、こちらが専門なのです」こういった水の神女としての誇りが、おもしろく昔の人には感じられたのであろう。藤井が原を改めて藤原としたのも、井の水を中心としたからである。中臣女や、その保護者の、水に対する呪力から、飛鳥の岡の上の藤原とのりなおして、一つに奇瑞を示したからであろうと考える。中臣寿詞を見ても、水・湯に絡んだ聖職の正流のような形を見せている。中臣女の役が、他氏の女よりも、恩寵を得る機会を多からしめた。光明皇后に、薬湯施行に絡んで、廃疾人として現れた仏身を洗うた説話の伝っているのも、中臣女としての宮廷神女から、宮廷の伝承を排して、后位に備るにさえ到った史実の背景を物語るのである。藤原の地名も、家名も、水を扱う土地・家筋としての称えである。衣通《そとおり》媛の藤原|郎女《いらつめ》であり、禊ぎに関聯
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