た擬古文の上の用語例、こういう二方面から考えてみねば、古い詞章や、事実の真の姿は、わかるはずはない。

     二 みぬま[#「みぬま」に傍線]という語

 これから言う話なども、この議論を前提としてかかるのが便利でもあり、その有力な一つの証拠にも役立つわけなのである。
 出雲|国造《くにのみやつこの》神賀詞《カムヨゴト》に見えた、「をち方のふる川岸、こち方のふる川ぎしに生立[#「生立」に傍線](おひたてるヵ)若水沼間《ワカミヌマ》の、いやわかえに、み若えまし、すゝぎふるをとみ[#「をとみ」に傍線]の水のいや復元《ヲチ》に、み変若《ヲチ》まし、……」とある中の「若水沼間」は、全体何のことだか、国学者の古代研究始まって以来の難義の一つとなっている。「生立」とあるところから、生物と見られがちであった。ことに植物らしいという予断が、結論を曇らしてきたようである。宣長以上の組織力を示したただ一人の国学者鈴木重胤は、結局「くるす」の誤りという仮定を断案のように提出している。だが、何よりも先に、神賀詞の内容や、発想の上に含まれている、幾時代の変改を経てきた、多様な姿を見ることを忘れていた。
 早
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