は拗曲《ようきょく》したままに、伝った語句もある。だがたいていは、呪詞|諷唱《ふうしょう》者・叙事詩|伝誦《でんしょう》者らの常識が、そうした語句の周囲や文法を変化させて辻褄《つじつま》を合せている。口頭詞章を改作したり、模倣したような文章・歌謡は、ことに時代と個性との理会《りかい》程度に、古代の表現法を妥協させてくる。記・紀・祝詞《のりと》などの記録せられる以前に、容易に原形に戻すことのできぬまでの変化があった。古詞および、古詞応用の新詞章の上に、十分こうしたことが行われた後に、やっと、記録に適当な――あるものは、まだ許されぬ――旧信仰退転の時が来た。奈良朝の記録は、そうした原形・原義と、ある距離を持った表現なることを、忘れてはならぬ。たとえば天の御蔭[#「天の御蔭」に傍線]・日の御蔭[#「日の御蔭」に傍線]・すめらみこと[#「すめらみこと」に傍線]・すめみま[#「すめみま」に傍線]などいう語《ことば》も、奈良朝あるいは、この近代の理会によって用いられている。なかには、一語句でいて、用語例の四つ五つ以上も持っているのがある。
 言語の自然な定義変化のほかに、死語・古語の合理解を元とし
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