の胸に消化してしまつて、事実や事実を記録したものと思はれてゐる記録が、最平常な伝説型に直されて来る。一層《いつそ》事実らしいものがなかつたら伝説になつてしまふ所だつたのでせう。事実といふことより伝説の方が何回でも繰返すのですから伝説の世界に這入つた方が広く長い命を持つて来るわけです。謂はゞ伝説哲学とでも言ふべきものに這入つてしまふのです。
さてかういふ風に二つの書物に現はれてをりましても、二つについて我々が受ける印象といふものは、いづれも伝説的だといふことは言うて差支へないことだと思ひますし、恐らくその当時はつきりしたことを知つてをつた人々は、それを取巻いてゐる事件、更に遠い所にゐるといふ人達は、それと同じやうに起つた事件を伝説として取扱つてゐたに違ひないと思ひます。所がさういふことを万葉集から拾つて見ますと、いろいろな事柄が出て参りまして、それこそ枚挙にいとまもないわけですが、それで非常に似てゐることで違つた形を見せてゐること、これも名高い事実をかりて来た万葉集の初めの方にあります麻績《ヲミノ》王といふ人が、伊勢国の伊良虞の島に流された。伊良虞の島では外から見た地形に、はつきり別々の
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