葉は、古代からひき続いて来たものに違ひないといふ――古代語でゐて、古代文献に現れず、まるで中世に生れたものゝやうな形で残つてゐる。――さう言ふ言葉も沢山ございますし、その他、いろ/\な事柄――民俗など――につきましても、どうしても、万葉と源氏と、きり放しておいては、聯絡も説明もつかぬといふやうな文化現象が沢山あるのです。さういふ中間時代の学問が、今後現はれて来なければ、古代と中世とは、木と竹をつぎ合せたものになりませう。
源氏物語で言ひますと、光源氏が、須磨へ流れて行きました。――流されて行つたのでは、少々問題がありますから、流れて行つたといふことにしておきます――が、小説の本体から言へば、流されたのでせうが、流されたといふことをば避けた表現法をとつてゐるのです。自ら進んで流れて行つたといふやうに書いてゐるわけですが、あの源氏と同じやうな物語が源氏以前にもあり、源氏以後にもございます。これは私等の言葉で「貴種流離譚」――貴い種の人がさすらひ歩くといふやうな点に寄せて名前をつけてをりますが、貴種流離の話といふものは、実に沢山ございます。その話の一部分で片附くことはかたづけて置かうと言ふ計
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