外の夫を特つことは、神の怒りに触れるからといふので、それで死んで行くのだといふ風にとつてゐるのです。だから死なゝいでいゝ場合もあるわけです。
沖縄の方に行きますと、やはり同種類の話が沢山ありまして、普天間《フテマ》といふ所の普大間権現の由来は、内地でも名高いものです。名前は権現と言つてをりますが、祭神がとつくに沖縄的に変つてしまつてゐます。普天間権現といふ神様は女神で、首里の町の桃原御殿《トオバルオドン》といふ貴族屋敷の娘です。姉さんが結婚した。ところが姉の夫が、女の部屋に入つて来て、その妹娘の顔を見た。さう言ふ場合には、内地では恋愛を表示したからとか、何とかといふところですが、沖縄ではそこまで言つてゐない。男が妹の顔を見たくなつて、女部屋に入つて行つたので、妹娘はそのまゝ家を飛び出してしまつた。その時に内地の苧環――芭蕉の糸を捲いたものを持つて家を出た。首里から普天間まで二里もありませうか、その道を逃げて行つたのです。どん/\逃げて、後を一度も振り返らなかつたが、途中の坂道の所にかゝつて振り返つた。それからはそこを、後見坂(くしみしびら[#「くしみしびら」に傍点])と言ふやうになつた
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