前後の動作、さう謂つたものが次第に固定し、意識化せられて芸能となつて来た。つまり其等の信仰の原体は、「常世の稀人《マレビト》(賓客)」なる妖怪であつた。さうして、合理化しては、邑落の祖先なる考妣《チヽハヽ》二体を中心とする多数の霊魂であるとした。我が国古風の祭祀では、その古義を存するもの程、其多くの群行する賓客を迎へる設備をしたものである。藤原の氏の長者権の移動を示すものとして、考へられてゐた朱器《シユキ》・台盤《ダイバン》の意義を、私は古くから、此賓客を饗応する権力即「あるじ」たる力を獲る事にあるとして居た。近頃、村田正言学士が、此「二種の神器」の外に、蒭量と言ふもののある事を教へてくれた。まだ円満な解釈に達しないが、字から見れば、「くさはかり」又は「ひくさ[#「ひくさ」に「干草」の注記]ちぎり」とでも言ふべき、古代の重さを見る計量器――即、恐らくは其容れ物――であつたらしい事は察せられる。さすれば、馬の飼葉《カヒバ》を与へる事を意味してゐるものがありさうに思はれる。

      其駒

[#ここから2字下げ]
その駒ぞや われに草乞ふ。草はとり飼《カ》はむ。みづはとり 草はとり飼
前へ 次へ
全38ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング