するもの、と信じたのである。此は真実もあり、錯誤もあつたに違ひない。だが、かうした種族の存在を考へるに到つた元は、その人々と同じくして、もつと畏しいものとして迎へられた神々の群行であつたのだ。週期的に異神の群行があつて、邑落を訪れ、復来むまでの祝福をして通るものと信じてゐた事にある。此信仰が深まると共に、時として忽然極めて新なる神々の来臨に遭ふ事も、屡《しばしば》であつた。さうした定期のをも、臨時のをも、等しく漠たる古代からの考へ方で信じてゐたのである。畏しくして、又信頼すべきものとしてゐた。其等の神の持ち来した詞章は勿論、舞踊・演劇の類は、時を経ると共に、此土の芸術として形を著しく固めて行つた次第である。たとひ此等の異人の真の来訪のない時代にも、村々の宿老《トネ》は、新しく小邑落の生活精神としての呪術を継承する新人《ニヒビト》を養成する為に、秘密結社を断やす事なき様に努めて来た。其処で、ある期間の禁欲生活《モノイミ》を経た若者たちは、その解放を意味する儀礼としての祭祀において、神群行の聖劇を行つた。行道或は地霊克服を内容としての演劇であつた。又苛酷な訓練や、使役の反覆、憑霊状態に入る
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