美観などといえば大げさだが、何かのきっかけには、駭然《がいぜん》として目を覚ます、そう謂ったあり様に、おかれてあったのではないか。だから事に触れて、思いがけなく出て来るのである。そう思えば、集古館の不思議どころでなく、以前には、もっと屡《しばしば》、そう言う宗教心を衝激したことがあったようである。手近いところでは、私の別にものした中将姫の物語の出生なども、新しい事は新しいが、一つの適例と言う点では、疑いもなく、新しい一つの例を作った訣《わけ》なのである。
だが其後、おりおりの感じというものがあって、これを書くようになった動機の、私どもの意識の上に出なかった部分が、可なり深く潜んでいそうな事に気がついて来た。それが段々、姿を見せて来て、何かおもしろおかしげにもあり、気味のわるい処もあったりして、私だけにとどまる分解だけでも、試みておきたくなったのである。今、この物語の訂正をして居て、ひょっと、こう言う場合には、それが出来るのかも知れぬという気がした。――其だけの理由で、しかも、こう書いていることが、果してぴったり、自分の心の、深く、重たく折り重った層を、からりからりと跳ねのけて、はっきり
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