に若干関係あるように見えようが、謂わば近代小説である。併し、舞台を歴史にとっただけの、近代小説というのでもない。近代観に映じた、ある時期の古代生活とでもいうものであろう。
老語部を登場させたのは、何も之を出した方が、読者の知識を利用することが出来るからと言うのではない。殆無意識に出て来る類型と択ぶ所のない程度で、化尼になる前型らしいものでも感じて貰えればよいと思うたのだ。こんな事をわざわざ書いておくのは、此後に出て来る数|个《か》条の潜在するもののはたらきと、自分自身混乱せぬよう、自分に言い聞かせるような気持ちでする訣である。
称讃浄土仏|摂受経《しょうじゅぎょう》を、姫が読んで居たとしたのは、後に出て来る当麻曼陀羅の説明に役立てようと言う考えなどはちっともなかった。唯、この時代によく読誦《どくしょう》せられ、写経せられた簡易な経文であったと言うのと、一つは有名な遺物があるからである。ところが、此経は、奈良朝だけのことではなかった。平安の京になっても、慧心僧都《えしんそうず》の根本信念は、此経から来ていると思われるのである。ただ、伝説だけの話では、なかったのである。此|聖《ひじり》生れ
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