。荒年続きで苦しんだ東北の農村で考え出したと言う新聞記事すら、まだつい[#「つい」に傍点]此頃見た事のような気がする。
[#ここから2字下げ]
耳近く鳴く鶯は 篶のなか 青き躑躅《ツツジ》の 時に立ち居る
おほらかに 人のことばの思ほえて、山をあるくに いきどほりなし
[#ここで字下げ終わり]
地竹に縁があるのもおかしいが、やっぱり今年は、度々これを喰べた。七月の五日、鶴岡の町であった先師三矢重松先生の歌碑の除幕式に出掛けて、其後ずっと出羽の山々を歩いて居た訣だが、あの次の六日の日は、羽黒山頂上の斎院で泊った。友人なる山の宮司が肝をいってくれて、夕饗《ユウゲ》は二の膳に到るまで、一切山の物ばかりであった。其中では、やっぱり月山筍《ガッサンダケ》が一番印象している。おなじ地竹と言っても、羽後の三山に亘って生える笋は、唯の篶竹のよりは肥えている。鶴岡の市場へ行って見たら、此が沢山出て居た。ちょっと見には、茗荷の長いのの様な感じがして居た。そうした舌の記憶を思い起すような事があるのは、誰もある事である。山や野の長い道の中で此追憶の来る時は、やるせないものだ。と言うことは旅をする者だけが知
前へ
次へ
全14ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング