から三味線の音が聞えて来たりする。
其処から西へ向けて、米沢海道を自動車で来ても、又道に沿うて居る奥羽本線の汽車からでも、ほんの一丁場と言ったところに、赤湯の湯場がある。青田の中で、ちょっとした岩山の裾によった処である。上ノ山をもう一層鄙びた風にした様なところで、湯村を離れて海道を歩いて見ると、飛びとびの村家の姿が、風情深く見られた。其処から又一丁場西へ来て、米沢である。白布との間が、自動車でせいぜい五十分しかかからないので、ついつい山をおりて、米沢へ出ることが多かった。

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暑き日のたまさか 山をおり来たり、町場に入れば 疲れつつあり
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百貨店のない都会は、何となく落ちついている。購買力を誇張しないだけでも、町びとの暮しが何となくしっとりした素朴を保って行くことが出来るのであろう。
半月ほどにしかならないが、やっと前に開通したばかりの鉄道線が、越後へ通って居る。米阪線と言うので、名は何だか小商人《コアキンド》の屋号のようである。私はほんの此少し前に、此汽車で越後境へ這入って見た。新潟県へ這入って、小国《オグニ》と金丸《カナマル》との間を
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