、まだ汽車が通わないで居た。
鷹の巣と言う山の下にある温泉へ行こうと思って行ったのである。去年の秋の末、鉄道が通ったばかりの小国の村は、其でも終著駅らしい様子を、駅前の運送店や、飲食店に見せて居た。だが此も、もうここ半月位で、多くの客の素通りして行く静かな山間の宿場に還るのだと思うと、内容は違うけれど、田山さんの作物にあった「再び草の野に」と言う表題が、胸を掠めた。小綺麗な料理屋の二階から川を見おろす座敷に通って、鮎を焼かせようとしたが、まだ解禁にならないと言う。多くの平野の川々では、やがて復禁りょう[#「りょう」に傍点]の時期に入ろうとして居るのに、山の中ではまだ鮎が小さ過ぎると言って居る。旅行した先々で鮎を頼んで見ると、十月末になって、さび[#「さび」に傍点]尽してもまだ禁猟にならない処もあり、禁猟など言うことが、鮎にあることすら知らぬ地方もある。中食の払いをして見ると、普通こう言う町でとる値段の倍以上もつけておこしたようである。此も後半月、汽車の通過するようになる時までだろうと思うと、おかしくなって来た。
越後金丸《エチゴカナマル》・越後片貝《エチゴカタガイ》など言う新駅も、出来
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