が、大分あるが、我々の近代の用語例からすれば、酸いと言うより、渋いに偏った味である。最上高湯は、狭い山の湯村に驚くばかりの人数が入りこんで居る。宿と宿とが、二階の縁から縁へ跨ぎ越えられるほどに建て詰んでいる。其で居て、何だか茫漠とした感じのあるのが、よさ[#「よさ」に傍点]と謂える湯治場である。
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昼貌の花 今日ひと日萎れねば、山の雨気《アマケ》に 汗かきて居り
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最上の湯でのものだったと思うが、歌の方が却て、少し鄙びた感じを出し過ぎて居るようで、よくない。ひょっとすると、蔵王の山を一つ隔てた向う側の青根温泉で出来たものかも知れない。創作動機など言うものは、瞬間に通り過ぎるもので、こんな部分までも、記憶に残らないことがあるものである。
蔵王山の行者が、峰の精進《ショウジ》をすましての第一の下立《オリタ》ちが、此高湯だとすれば、麓の解禁場《トシミバ》が上《カミ》ノ山に当るわけである。其ほど繁昌して居て、亦年久しい湯治場だろうのに、未に新開地らしい所がある。青い芝山の間に、白い砂地があって、そこが材料置場になったりして居る。思いがけない町裏
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