人は別だ。我々はやつぱり連れのある旅は、のどかになるに過ぎる。広い野原に立ち停つて、もう旅をやめてしまはうとたまらなくなつて来る気持ちは、苦しいけれども、旅が身に迫つて感ぜられる。さうした心は、此頃、あまり起らなくなつた。よくさうした心持ちは、まう一つ、やゝ大きな暈のやうなものを伴つて起つて来がちであつた。人生に倦んだとでも言へるやうな心持ちである。旅だから、よしも還り入る家はあるが、此が生涯だつたらどうする。こんな事を考へるよりも先に、かう言ふ形をとつて心持ちの上におつかぶさつて来る。旅に出て謂はれなく死んでしまふ人の気が訣る。出来心と人は言ふ。又、いはれなき謂はれを求めようとする理づめの世間になつて来たが、旅の切ないある気持ちは、少数の人とだけは咄しあへさうな気がする。出来心でさへもない。やつぱり旅のみが持たせる負担といふか、たまらない倦さが、人生の倦さに一致してしまふからである。根本は[#「根本は」に傍点]、旅のつらさから来るには違ひない。殊に大きな山を歩いて居る時が、一番この気まぐれと謂へば言へる気分に這入り易い。さうした引き続いた気分の後、見わたしのきく場処などに出ると、急に
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