山の音を聴きながら
折口信夫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)湍《タギ》ちも

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)茶臼|原《バル》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ようべ[#「ようべ」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)とぼ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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ようべ[#「ようべ」に傍点]は初めて、澄んだ空を見た。宇都宮辺と思はれる空高く、頻りに稲光りがする。もう十分秋になつて居るのに、虫一疋鳴かない。小山の上の大きな石に腰をおろして居ると、冷さが、身に沁みて来るやうだ。物音一つしない山の中に、幽かに断え間なく響いて居るのは、夜鷹が谷の向うに居るのだらう。八時近くなつて、月の光りが明るくさして来た。八月末になつて、豪雨が三度も来て、山は急にひつそりしてしまつた。ま昼間、目の下の川湯に浸つて女や子どもなどが物言ふ声も、しんかんと響くくらゐである。山の湯宿の夜といふものは、何かみじめらしい穢さを感じるものだが、こゝは、一向さつぱりと静まつて居る。茶臼
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