へる巫女が、野[#(ノ)]宮に居て、祭り日には神に代つて来る様にもなつた。山の神は里の神人の一時の仮装ではあるが、山の神の信仰が高まつて、山の主神の為に、山の嫁御寮《ヨメゴリヨ》が進められたのである。
祭り日の市場《イチ》には、村人たちは沢山の供へ物を用意して、山の神の群行或は山姥の里降りを待ち構へた。山の神・山姥の舞踊《アソビ》の採《ト》り物《モノ》や、身につけたかづら[#「かづら」に傍線]・かざし[#「かざし」に傍線]が、神上げの際には分けられた。此を乞ひ取る人が争うて交換を願ふ為に、供へ物に善美を尽す様になつた。此山の土産は祝福せられた物の標《シルシ》であつて、山人の山づと[#「山づと」に傍線]は此である。此が、歌垣が市場で行はれ、市が物を交易する場所となつて行く由来である。さうして、山人・山姥が里の市日に来て、無言で物を求めて去つた、と言ふ伝説の源でもある。其時の山づと[#「山づと」に傍線]を我勝ちに奪ひ合ふ風が、後のうそかへ[#「うそかへ」に傍線]神事などの根柢をなしてゐ、又、祭りの舞人の花笠などを剥ぎ取る風をも生み出したのである。
山づと[#「山づと」に傍線]は何なに。山の
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