山の神と村人との間の感情が、以前よりは、申し合せのつきさうな理会ある程度まで、柔らいで来たのだ。村の生活を基礎とした国の生活、其中心なる宮廷、古く溯る程、神を迎へ神を祭る場所と言ふ義の明らかに見える祭りの場所《ニハ》としての宮廷にも、春の訪れに来向ふ者は、常世神でなく、山の神となつた。初春ばかりか、宮廷の祭り日や、祓への日などには、きつと、かはたれ時の御門《ミカド》におとなひ[#「おとなひ」に傍線]の響きを立てた。村々の社々にも、やはり時々、山の神が祭りの中心となつて、呪言を唱へ、反閇《ヘンバイ》を踏み、わざをぎ[#「わざをぎ」に傍線]の振り事、即神遊びを勤めに来た。
さうした祭り日に、神を待ち迎へる、村の娘の寄り合うて、神を接待《イツ》く場所《ニハ》が用意せられた。神の接待場《イチニハ》だから、いち[#「いち」に傍線]と言はれて、こゝに日本の市の起原は開かれた。山の神は、勿論、里の成年戒を受けた後の浄い若者の扮装姿《ヤツシ》であつた。常世神がさうであつた様に。後、漸く山の主神に仕へる処女を定めて、一人野山に別居させる様になつて、野《ノ》[#(ノ)]宮《ミヤ》の起りとなつた。山の神に仕
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