の一行が、春毎の遠世浪《トコヨナミ》に揺られて、村々に訪れて、村を囲む庶物の精霊を圧へ、村の平安の誓約《ウケヒ》をさせて行つた記憶が、山国に移ると変つて来た。常世神に圧へ鎮められる精霊は、多くは、野の精霊《スダマ》・山の精霊《コダマ》であつた。其代表者として山の精霊が考へられ、後に、山の神と称せられた。山の神と常世神とが行き値うての争ひや誓ひの神事演劇《ワザヲギ》が初春毎に行はれた。村の守り神が其時する事は、呪言を唱へることであり、村の土地・家々の屋敷を踏み鎮めることであつた。さうしてわざをぎ[#「わざをぎ」に傍線]をするのが、劫初から恐らく罔極の後へかけて行はれるものとの予期で、繰り返された村の春の年中行事であつた。
青垣山にとり囲まれた平原などに、村国を構へる様になると、常世神の記憶は次第に薄れて行つて、此に替るものが亡くなつた。さうして山の神が次第に尊ばれて来て、常世神の性格が授けられて来る。常世及び其神の純な部分からは、高天原並びに其処に住む天つ神の考へが出て来た。村人と交渉深い春の初めの祝福と土地鎮め、村君・国主の健康を寿ぐ方面の為事は、山の神が替つてすることになつた。つまり
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