山のことぶれ
折口信夫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)岨《ソバ》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)其|昔《カミ》から

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)くつきり[#「くつきり」に傍点]

 [#(…)]:訓点送り仮名
 (例)野《ノ》[#(ノ)]宮《ミヤ》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)まぢ/\
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     一 山を訪れる人々

明ければ、去年の正月である。初春の月半ばは、信濃・三河の境山のひどい寒村のあちこちに、過したことであつた。幾すぢかの谿を行きつめた山の入りから、更に、うなじを反らして見あげる様な、岨《ソバ》の鼻などに、さう言ふ村々はあつた。殊に山陽《カゲトモ》の丘根《ヲネ》の裾を占めて散らばつた、三河側の山家は寂しかつた。峠などからふり顧《カヘ》ると、必、うしろの枯れ芝山に、ひなたと陰とをくつきり[#「くつきり」に傍点]照しわける、早春の日があたつて居た。花に縁遠い日ざしも、時としては、二三の茅屋根に陽炎《カゲロフ》をひらつかせることもあつた。
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